top of page
執筆者の写真望月 史郎

なぜ役員報酬を配当所得として受け取るメリットは限定的なのか?


役員報酬を減額し、その分を配当所得として受け取ることで、税負担や社会保険料の軽減を図る方法が一部で推奨されています。しかし、実際のところ、役員報酬を配当として受け取ることのメリットは限定的であり、効果が少ない場合が多いです。本ブログでは、役員報酬を配当所得として受け取ることのメリットが限定的な理由について、以下の点を踏まえて検討します。


1. 二重課税の影響

役員報酬を配当所得に切り替える際に避けられない問題が二重課税です。配当金は、法人税を支払った後の利益から株主に分配されます。つまり、法人が既に法人税を支払った上で、その利益から個人に配当が行われ、その配当金に対しても所得税や住民税が課税されるため、法人税と個人税の二重課税が生じます。

  • 役員報酬の場合:所得税・住民税に加え、社会保険料がかかります。

  • 配当所得の場合:法人税を支払った後の配当に対しても所得税が課税され、全体として課税額が増える可能性があります。

このように、二重課税の影響で、配当として受け取る場合には総合的な税負担が大きくなり、メリットが限定的です。


2. 社会保険料削減効果が限られる

役員報酬には、所得税と共に社会保険料(健康保険、厚生年金保険)が課されます。一方、配当金には社会保険料が課されないため、役員報酬を減額して配当を受け取ることで社会保険料の削減効果が期待されます。

しかし、社会保険料には上限が設定されており、月額報酬が140万円以上の場合、報酬を減額しても社会保険料には変動がありません。したがって、高所得者にとって配当所得のメリットはほとんどなく、役員報酬を維持した方が合理的です。


3. 配当控除の効果が限定的

配当所得には「配当控除」が適用され、所得税の一部が控除される制度があります。これにより、配当金に対する課税が軽減される可能性がありますが、高所得者層では配当控除の効果が限定的です。累進課税により、所得が高いほど税率が高くなるため、配当控除を適用しても十分な税負担軽減が得られないことが多いです。

例えば、所得が900万円を超える場合、配当控除の適用率は5%となり、税負担軽減の効果は限定的です。


4. 配当金受け取りには株主である必要がある

役員報酬を配当として受け取るためには、役員自身が株主である必要があります。多くの中小企業では、社長や役員が主要な株主であることが一般的ですが、外部の株主がいる場合、配当の分配に関して他の株主とのバランスを考慮しなければなりません。また、配当金の支払いは法人のキャッシュフローに影響を与え、経営の安定性にリスクが生じる可能性があります。


5. 役員報酬の適正設定の重要性

役員報酬を適正に設定することは、法人税の節税効果を最大化し、税務リスクを軽減するために非常に重要です。適正な役員報酬を設定することで、法人税の課税所得を最適化し、配当所得のようなデメリットを回避できます。したがって、配当として受け取るよりも、役員報酬を適正に設定して受け取る方が多くのケースで有利です。


なお書き:上場企業の場合

なお、上場企業の場合、配当所得には申告分離課税が適用されるため、二重課税の影響が軽減される場合があります。申告分離課税を利用することで、所得税や住民税を合わせた税率は約20%となります。このため、上場企業の役員が株式の所有比率が高く、配当が多い場合には、配当所得の方が税負担が軽減されるケースもあります。しかし、この場合も役員報酬とのバランスを考えた適切な税務計画が必要です。


結論:役員報酬を配当所得に切り替えるメリットは限定的

役員報酬を配当所得として受け取ることのメリットは、状況に応じて限られる場合が多いです。特に以下の理由から、配当所得として受け取るよりも、適正に役員報酬を設定する方が有利な場合が多いです:

  1. 二重課税の影響で、総合的な税負担が増える可能性がある。

  2. 社会保険料の削減効果は、高所得者には期待できない。

  3. 配当控除の軽減効果は、高所得者層にとって限定的である。

  4. キャッシュフローや株主とのバランスを考慮する必要がある。


ただし、上場企業の場合は、申告分離課税の適用による税軽減の効果があるため、株式所有比率が高く配当が多い場合には、配当の方が有利となる場合もあります。どちらが有利かは、会社の状況や役員の所得に応じて変わるため、税務の専門家と相談しながら、最適な報酬・配当戦略を設計することが重要です。

閲覧数:4回0件のコメント

댓글


bottom of page