昇給時期を4月と10月の年2回に設定している会社も多いと思いますが、賃金は労働者の生活基盤に直接関係するため、慎重な対応が求められます。
今回は、賃金変更に必要な手続きと給与計算に加え、労働基準法や最低賃金法などの法的観点からも注意点を整理して解説します。
法的に問題ない形で円滑に賃金変更を進めるための重要なポイントを押さえましょう。
目次
賃金変更時に必要な手続きと給与計算のポイント
1.1 随時改定(月額変更届)
1.2 賃金変更のタイミングと保険料の反映
1.3 源泉所得税の再計算
賃金変更の法的観点
2.1 労働基準法と賃金変更のタイミング
2.2 最低賃金法に基づく注意点
2.3 就業規則や労働条件通知書の確認
2.4 従業員とのトラブルを防ぐための注意点
まとめと次回予告
1. 賃金変更時に必要な手続きと給与計算のポイント
1.1 随時改定(月額変更届)
昇給・降給時には社会保険料の「随時改定(月額変更届)」が必要となることが多いです。
具体的には、次の3つの条件を満たす場合に提出が必要となります。
(1)昇給または降給等により固定的賃金に変動があった。
(2)変動月からの3カ月間に支給された報酬(残業手当等の非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額とこれまでの標準報酬月額との間に2等級以上の差が生じた。
(3)3カ月とも支払基礎日数が17日以上である。
※手続きの時期や注意点は前回の記事を参照してください
1.2 賃金変更のタイミングと保険料の反映
賃金変更のタイミングによって、保険料がいつ変更されるかが決まります。
昇給や降給があった場合、変更のあった月を含めて3か月間の平均賃金を基に4か月目から新しい等級が適用されます。
例:10月支払い分で昇給があった場合は、翌年1月の給与から新しい保険料が適用されるため、実際の給与計算に反映させるのは2月支払い分からです。※原則的な翌月徴収の場合
1.3 源泉所得税の再計算
賃金変更時には、源泉所得税の再計算も必要です。
特に給与計算ソフト等を使用せず手動で計算している場合には要注意です。
昇給した場合は給与が増加するため、新しい税額に基づいた正確な控除を行う必要があります。また、降給の場合は過剰に税額が控除されないよう、税額を正しく再計算しましょう。
2. 賃金変更の法的観点
賃金変更は、法的な観点からもしっかりと確認しておかなければなりません。労働基準法や最低賃金法に従い、適切な手続きを進めることで、トラブルを未然に防ぎましょう。
2.1 労働基準法と賃金変更のタイミング
労働基準法第24条では、賃金は毎月1回以上、一定の期日に全額を支払う義務があります。賃金変更を行う場合には、翌月から適用するのが一般的ですが、特に賃金が減少する場合には従業員の同意を得ることが重要です。また、賃金の支払い期日を守ることも大切です。
2.2 最低賃金法に基づく注意点
賃金変更時には、最低賃金法を守ることが必須です。最低賃金を下回る賃金で従業員を働かせることは違法となります。毎年の最低賃金改定に応じて、賃金がその基準を満たしているかどうか確認しましょう。
2.3 就業規則や労働条件通知書の確認
賃金変更時には、就業規則や労働条件通知書に賃金制度や変更条件が明記されているかを確認する必要があります。労働基準法では、労働者に対して労働条件を明示することが義務付けられており、変更があった際には労働条件通知書を速やかに従業員に交付することが求められます。
2.4 従業員とのトラブルを防ぐための注意点
賃金変更を行う際には、従業員に事前に十分な説明を行い、変更の理由や背景をしっかりと伝えることが重要です。特に賃金が減額される場合には、従業員の同意を得る必要があり、一方的な変更は法的に認められません。合意を文書で残しておくこともトラブル防止に役立ちます。
3. まとめと次回予告
従業員の賃金変更時には、労働基準法や最低賃金法などの法的要件に従いつつ、適切な手続きを行うことが求められます。また、変更のタイミングや給与計算の正確な反映が必要で、従業員とのコミュニケーションを大切にし、トラブルを未然に防ぐことが大切です。
次回は、「年末調整の基礎と重要な注意点」について解説します。
年末調整は企業と従業員の双方にとって重要なイベントです。必要な手続きや書類の提出、控除の確認方法、最新の変更点などを中心に、わかりやすく解説していきます。
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